自己破産|過払い金における時効の中断

主文

1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,493万0751円及び内金428万9260円に対する平成18年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の主位的請求及び予備的請求のうち前項の認容額を超える部分をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを10分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 控訴人
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,533万0751円及び内金468万9260円に対する平成18年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,貸金業を営む被控訴人と基本契約を締結して,借入れと弁済を繰り返していた控訴人が,被控訴人に対し,(1)主位的請求として,(ア)利息制限法所定の利率を超える利息として支払われた部分(制限超過利息)を貸付金の元本に充当すると過払い金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払い金388万9260円及び過払い金に対する取引終了日である平成18年12月26日までの確定利息64万1491円の合計453万0751円並びに過払い金388万9260円に対する同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払,(イ)民法704条後段の損害としての弁護士費用40万円及びこれに対する受益の日である平成18年12月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(ウ)被控訴人が,存在しない債務を存在するかのように装って支払を請求し,これを受領した不法行為により,控訴人が被った精神的損害30万円及びこれと相当因果関係のある弁護士費用10万円及びこれらに対する不法行為の後である平成18年12月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(2)予備的請求として,不法行為に基づく損害賠償として,上記過払い金と同額の損害賠償金388万9260円,控訴人が被った精神的損害30万円,同不法行為と相当因果関係のある弁護士費用50万円(以上の損害合計468万9260円)及び取引終了日である平成18年12月26日までの既発生遅延損害金64万1491円の合計533万0751円並びに上記損害468万9260円に対する不法行為の後である同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。
原審は,主位的請求について,平成9年1月31日以前に発生した過払い金返還請求権は時効により消滅したとして,その後に発生した過払い金222万5000円及びその確定利息59万2343円と,過払い金に対する遅延損害金の限度で認容し,その余の請求及び予備的請求をいずれも棄却したことから,控訴人がこれを不服として控訴したものである。
2 そのほかの事案の概要は,控訴人の当審における主張を次に付加するほか,原判決の事実及び理由中の第2に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁13行目及び4頁14行目の「遅延利息」を「利息」と改める。)。
(控訴人の当審における主張)
(1) 過払い金返還請求権の消滅時効の起算点について
ア本件基本契約が本件充当合意を含むものと解されるのは,本件基本契約に基づく債務の弁済は,繰り返し行われることが予定された各借入れごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金全体に対して行われるものであり,充当の合意の対象となるのは,このような全体としての借入金債務であると解されるからである。そうであれば,本件充当合意は,少なくとも本件基本契約の存続中は,これに基づく弁済により発生した過払い金を本件基本契約に基づき発生する借入金債務全体に対して充当する趣旨であるから,本件基本契約が終了し本件充当合意による充当が終了した時点で充当されずに残った過払い金額が返還請求権を行使できる過払い金として確定することになるものである。
そして,本件充当合意は,過払い金の返還時期を本件基本契約終了時(本件充当合意による充当が終了し過払い金額が確定した時)とする旨の定めを含んでいると解するのが合理的であり,本件過払い金返還債務は,不当利得返還債務ではあるけれども,期限の定めのない債務ではなく,本件基本契約終了時を返還時期とする旨の期限の定めのある債務であると解するのが相当である。
イ過払い金返還請求権には,その発生時から民法704条の法定利息が付加されることがあるが,そのことと,その消滅時効が過払い金発生時から進行しないと解することとは何ら矛盾するものではない。
ウ発生した過払い金がその後の借入れによる新たな借入金債務に充当されるのは,本件基本契約に含まれている本件充当合意に基づくものであり,本件充当合意が本件基本契約に含まれていると解されるのは,本件基本契約に基づく弁済が弁済当時存在する借入金債務だけでなく,その後に発生する借入金債務を含めて,本件基本契約に基づく借入金債務全体を充当先とすることが契約上予定されているからである。
そうすると,もし,原判決のように考えると,控訴人は,本件基本契約に基づく弁済により発生した過払い金(弁済金)を契約上予定された充当が行われる前の段階で返還請求できることになり,当事者の一方的行為によって,当事者が合意した充当(弁済金の借入金債務全体に対する充当)を妨げることを認めることになり,許されないというべきである。
エ民法166条1項にいう「権利を行使することができる時」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく,さらに権利の性質上,その権利行使が現実に期待できるものであることをも必要とする。
本件基本契約に基づく弁済により発生した過払い金の不当利得返還請求権は,一般の不当利得返還請求権とは性質が異なり,本件基本契約の存続中(一個の連続した消費貸借取引の継続中)は,その後の借入れにより発生する新たな借入金債務に充当されて消滅し清算されることが予定された性質の権利である。
借主は,本件基本契約が存続している間(一個の連続した消費貸借取引が継続している間)は,過払い金が発生してもその後の新たな借入金債務に充当されて自動的に清算されるものと信頼しているのであって,本件基本契約が終了する前(一個の連続した消費貸借取引が終了する前)に,過払い金返還請求権の行使を借主に期待することは,権利の性質上,現実的に困難である。したがって,本件基本契約の終了時ないしこれに基づく一個の連続した取引が終了した時をもって,権利を行使することができる時というべきである。
(2) 時効の中断について
過払い金発生後の本件基本契約に基づく被控訴人の貸付行為は,それが過払い金返還債務の消滅事由であるとの合意を前提としているものであって,控訴人に対する過払い金返還債務の存在を知っている旨の表示行為にほかならず,時効中断事由としての債務の承認にあたる。
(3) 信義則違反について
仮に,本件過払い金返還請求権について,消滅時効期間が経過していると解したとしても,被控訴人が消滅時効を援用することは,違法行為によって控訴人の過払い金返還請求権の行使を困難にしていた者自身が,控訴人の権利の不行使を理由として支払義務を免れようとするもので,信義則に反し許されない。
(4) 過払い金返還請求のための弁護士費用について
民法704条後段の損害賠償責任は,不法行為とは別個に,不当利得制度を支える公平の原則に基づき悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めたものであり,その賠償すべき損害の範囲については民法416条が準用される。
したがって,本件弁護士費用が不当利得と相当因果関係の範囲内にある場合には被控訴人はその賠償責任を負う。
長期間にわたる借入れと制限超過利息の弁済を繰り返した結果過払い金が発生した場合において,悪意の受益者である貸金業者が訴訟外での過払い金の任意の返還に応じないために訴訟提起を余儀なくされ,貸金業法等に関する専門的知見(本件では消滅時効に関する専門的な法的知識も必要であった。)や充当計算に対する技術的知見が必要なために弁護士に訴訟提起及びその追行を委任することは,いずれも通常生じる事態である。
(5) 債務消滅後の弁済の請求,受領と不法行為について
制限超過利息の支払が合意によるものであったとしても,その合意は強行法規に違反して無効であり,法的保護を受けることはできない。
そのような合意に基づくという理由で不法行為の成立範囲を限定的に解することは本末転倒である。
また,制限超過利息の支払による損失の回復は不当利得返還請求権の行使によらなければならないとする理由もない。
制限超過利息の元本充当により貸金債務が消滅した後に,被控訴人が控訴人に対し債務の弁済を請求し,これを受領する行為は,実体法上の権利が存在しないのに,それを知りながら,控訴人の無知に乗じて適法に保持しえない金銭を請求し,これを受領する行為にほかならないものであるから,社会的に許容されない違法行為であり,不法行為を構成する。

第3 当裁判所の判断

当裁判所は,原判決と異なり,控訴人の請求は,主位的請求のうち,493万0751円及び内金428万9260円に対する平成18年12月27日から支払済みまで年5分の割合による利息,遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の主位的請求及びこれを超える予備的請求の部分は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
1 不当利得に基づく過払い金返還請求について
(1) 本件における過払い金及びその確定利息についての当裁判所の判断は,原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断(主位的請求について)」の1(1)に記載のとおりであるので(ただし,原判決11頁2行目の「遅延利息」を「利息」に改める。),これを引用する。
(2) 消滅時効の抗弁について
本件基本契約においては,控訴人は,契約期間中は,借入極度額の範囲内で繰り返し被控訴人から金員を借り入れることができ,借入金の返済は,毎月一定の日に,借入残高を基準として定められた一定額を支払うものとし,利息は,借入残高に対する支払期日以前の利用日数に応じて計算され,契約期間は5年間とするが,期間の満了する30日前までに継続しない旨の意思表示がなければ,さらに5年間自動継続することとし,以後も同様とするなどと定められていることが認められる(甲3,4の1ないし5)。
これによれば,本件基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであって,充当の対象となるのは,このような全体としての借入金債務であると解される。
そして,このような基本契約に基づく一個の連続した貸付取引において,当事者は,一つの貸付けを行う際に,次の個別の貸付けを行うことを想定しているのが通常であることに照らしても,本件基本契約は,これに基づく弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,過払い金が発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁,最高裁平成18年(受)第1534号同19年7月19日第一小法廷判決・民集61巻5号2175頁参照)。
したがって,このような充当についての合意により,本件基本契約に基づく貸付取引の継続中は,弁済や新たな貸付けが繰り返されることによって,過払い金の額も増減を繰り返して確定しないこととなるのであって,取引の終了する前に過払い金の返還を求めるようなことは現実には期待できないものである。
また,そもそも借主にとっては,過払い金の発生やその額について容易には分からないことが多く,しかもその原因は貸金業法43条1項の適用が認められるための要件を具備しない形態での取引を続けてきた貸金業者の側にあるということもできるのである。
このような貸付取引の実情をも考慮すれば,前記のような充当についての合意が本件基本契約に含まれていて,その内容となっているものと解されるにもかかわらず,本件基本契約あるいはこれに基づく連続した貸付取引が終了しなくても過払い金の返還請求権を行使することができ,消滅時効が進行を始めると解するのは相当でなく,本件基本契約及び本件充当合意のもとでは,基本契約の終了ないしこれに基づく一個の連続した貸付取引の終了により過払い金額が確定した時点で,過払い金返還請求権の行使が可能になるものと解すべきである。
したがって,過払い金返還請求権についての消滅時効が進行を始めるのは,本件基本契約の終了時ないしこれに基づく一個の連続した貸付取引の終了時であると解するのが相当である(なお,被控訴人が過払い金により得た利得については,悪意の受益者として利得を得た時から利息を付加して返還することを要するのであるが,それは現実に利得を得ていることによる効果としては当然であって,それによって消滅時効が進行を開始する時期に関する上記の判断が左右されるものではない。)。
したがって,被控訴人の消滅時効の抗弁は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,被控訴人は,控訴人に対し,原判決添付の別紙計算書1記載のとおり,過払い金388万9260円及び平成18年12月26日までの年5分の割合による確定利息64万1491円の合計453万0751円及び内金388万9260円に対する同月27日から支払済みまで年5分の割合による利息を支払う義務を負っているものと認められる。
2 民法704条後段に基づく請求について
当裁判所も,本件訴訟の追行に要した弁護士費用が民法704条後段所定の損害にあたるとする控訴人の請求は認められないと考えるが,その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断(主位的請求について)」の1(2)に記載のとおりであるので,これを引用する。
(1) 原判決11頁19行目の「被告が」の次に「上記理由から」を加える。
(2) 同11頁22行目の「加えて,」から26行目の「顕著であること」までを,「貸金業法や充当計算に関する知見,さらに時効に関する法的知識をも必要としたとしても,それらが被控訴人の不当な対応によって生じたものとまではいえないこと」に改める。
3 主位的請求における不法行為に基づく損害賠償請求について
控訴人と被控訴人が本件基本契約を締結した上で,原判決添付の別紙計算書1記載のとおり貸付け及び弁済を繰り返したことは争いがなく,したがって,控訴人は,昭和57年6月8日に取引を開始して以降,昭和61年4月28日には貸金返還債務は消滅したにもかかわらず,その後も平成18年12月26日まで20年以上の長期間にわたって,一度たりとも過払い金が消滅することなく本件基本契約の定めに従って弁済を続けてきたことが認められる。
そして,この間,昭和58年11月1日に貸金業法が施行されているが,附則6条1項では,貸金業者がこの法律の施行前に業として行った金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づき,この法律の施行後に,債務者が利息として金銭を支払ったときは,当該支払についてはみなし弁済に関する同法43条1項及び2項の規定は適用されないとされていること,その以前から,利息制限法所定の制限を超える金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときの元本への充当や返還請求に関する最高裁判例(最高裁昭和39年(オ)第1151号同年11月18日大法廷判決・民集18巻9号1868頁,最高裁昭和41年(オ)第1281号同43年11月13日大法廷判決・民集22巻12号2526頁)がすでに存していたこと,本件訴訟において,被控訴人は貸金業法43条1項の適用に関する主張・立証を何ら行っていないこと等を併せ考えると,被控訴人は,本件において過払い金が発生した時点で,控訴人からの以後の支払が,本来はもはや弁済義務のないものであることを認識し,その後は,控訴人が弁済義務のないことを知らずに支払を続けていることを認識しながら,それに乗じて本件基本契約の定めに従った支払を請求し,これを受領してきたものということができる。
このような被控訴人の行為は,上記のとおり,その期間が20年以上の長期にわたり,過払い金の額も多額に及んでいることをも考慮すると,社会的に許容される限度を超えた違法なものであり,不法行為と認めるのが相当である。
この間に控訴人が受けたであろう精神的苦痛を考慮すると,利息を付加した過払い金返還請求が認められることでてん補されるものとは到底いえないのであって,少なくとも控訴人の請求している30万円の慰謝料を認めるのが相当である。そして,これと相当因果関係のある弁護士費用は10万円と認める。
したがって,これらの合計40万円及びこれに対する不法行為後の平成18年12月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の請求は理由がある。
4 予備的請求について
上記のとおり,本件における控訴人の主位的請求のうち,過払い金の返還とその確定利息の請求部分及び慰謝料請求とそれに関する弁護士費用の請求部分は,いずれも控訴人の請求のとおり認容すべきものであるから,予備的請求のうちのこれらに対応する部分については判断の必要はなく,予備的請求のその余の部分は理由があるものとは認められない。

第4 結論

以上のとおりであって,控訴人の請求は,主位的請求につき,493万0751円及び内金428万9260円に対する平成18年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余の主位的請求及び予備的請求のうちこの認容額を超える部分の請求はいずれも理由がない。
よって,これと異なる原判決を変更して,主文のとおり判決する。

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